塩の道
上京してひと月が経った。
本来なら明日記念日を迎えるはずの恋人は
もうわたしの隣にはいなくて、
わたしの知らない街の知らない女の子と
多分今もきっと手を繋いでテレビを見たり
散歩をしたり、している。
元恋人を好きな気持ちはもうかけらほどしかなくて、
戻ってきて欲しい気持ちなんてもう認識もできないけれど、
知らない街で新しい仕事をして生きてく時に頼りにしよう頼りになってあげようと思っていた道しるべが急に消えるのはわたしが想像していた以上にきつかった。
わたしが今しんどいなと思うのは、
その人と別れたことでも、その人に新しい恋人がいることでもなくて、
人に必要とされていないという事実と、誰かからの需要の有無にいちいち肩を落とす自分の弱さと、そうして落ち込んでたくさんの人に泣きついて迷惑をかけていることだ。
頰に残った塩の跡を涙でこするような途方も無い日々が、ひたすらに続いている。